『万葉集』の注釈書

レポートに忙殺されていたけど、それも終わって春休みだ。

ここ数日は万葉集古事記、それから古代歌謡の注釈書ばかり読んでいた。なかなか注釈書を概観してみることがないので、研究の流れが見えて面白い。中には以降の注釈書にまるで無視されている注釈もあり、一見トンデモのようだけど、それはそれで味があったりする。

そこで今回は中でも『万葉集』の注釈書をざっとあげてみる。自分へのメモ用も兼ねているけれど、国文学を研究する人の役にも立つかもしれない。

なお、注釈だけでなく斎藤茂吉の『万葉秀歌』のような、エッセイ調のものも入れてみた。

 

万葉集

・古注(江戸時代の注釈書)

万葉集管見……下河辺長流。全巻から抄出。徳川光圀に「万葉集の注釈してくれ」と言われて執筆した。

万葉拾穂抄……北村季吟。全歌。季吟は松永貞徳に師事していたが、その貞徳のお爺ちゃんは戦国一の悪人という評判の松永久秀

万葉代匠記……契沖。全歌。長流の後を継いでできた注釈書であるため、長流の注釈と重なるところも多い。

万葉集童蒙抄……荷田春満。巻2~17。契沖に学んで、独自な注釈を行っている。

万葉考……賀茂真淵。巻1、2、11~14。全巻をカバーしているわけではないけれど、ここまでにない新しく詳しい見解を加えている。

万葉集問目……本居宣長賀茂真淵の文通。全巻から抄出。

万葉集略解……橘千蔭。全巻。賀茂真淵に師事した千蔭が、本居宣長の協力を得ながら作り上げた注釈書。従って、真淵・宣長と重なってくる部分もあるので、全巻に注を付けているという意義も加えて、古注の中では重要だと思われる。

金砂……上田秋成。全巻から抄出。『雨月物語』などの読本の作者として有名な秋成も、万葉集の注釈書を残している。

万葉集古義……鹿持雅澄。全歌。契沖以来の研究の集大成として存在している。

 

ここまでが近世の注釈書である。ちなみに巻14の東歌について手っ取り早く全体を知りたいなら、桜井満万葉集東歌古注釈集成』が便利である。

 

・新注(明治以降の注釈書)

口訳万葉集……折口信夫。全巻。歌人であり、国文学者でもある折口による、万葉集の口語訳。

万葉秀歌……斎藤茂吉。全巻から抄出。茂吉の気に入った歌について、いくつかの解釈とともに紹介している。わかりやすい。

万葉集評釈……窪田空穂。全巻。通称「評釈」。後の注釈書にひかれることも多い。

万葉集全註釈……武田祐吉。全巻。通称「全註釈」。著者の武田祐吉は東歌に関して、「東歌を疑ふ」において、東国人の作ではないものも含まれているのではないかという論を展開した。

万葉集私注……土屋文明。全巻。通称「私注」。窪田空穂もそうだけど、歌人が注釈書を書くというパターンの注釈書は、内容も仔細に富んでいる。

万葉秀歌……久松潜一。全巻から抄出。茂吉のと同じ名前だが、こちらは講談社学術文庫で刊行されている。

万葉集全訳注……中西進。全巻。講談社文庫から刊行されていて、岩波文庫のものが刊行されるまでは持ち歩きできる万葉集として、よいものだった。文字は小さいが、注はしっかりしている。

万葉集全解……多田一臣。全巻。2009年刊行で新しい。それまでの注釈を踏まえた解釈がされている。

万葉集全歌講義……阿蘇瑞恵。全巻。2011年刊行で、今現在で最も新しい注釈書か。

 

ここまでが新注釈で、この他には『日本古典文学大系』『新潮日本古典集成』『新編日本古典文学全集』『新日本古典文学全集』の有名な全集系がある。この中の『新日本古典文学大系』を文庫化したものが、現在岩波文庫から刊行されている。

 

万葉集(一) (岩波文庫)

万葉集(一) (岩波文庫)

 

訳も注も付いているし、何より字が大きくて見やすいので、今のところ、持ち運びできる万葉集ではこれが一番だと思う。

一家に一冊どうだろうか。

 

古注釈、新注釈合わせて、特に重要だと思われるのは『万葉集略解』『万葉集古義』『万葉集評釈』『万葉集全註釈』で、少なくともこれらは参照したい。

 

最近では上野誠や清川妙による入門書も出ていて、万葉集に親しみやすい環境ができている。

 

 

 

清川妙の萬葉集 (ちくま文庫)

清川妙の萬葉集 (ちくま文庫)

 

これらや岩波ジュニア新書から出ている『万葉集入門』、図解雑学シリーズの万葉集などを足がかりに、万葉集の世界に足を踏み入れてみてはどうだろう。

 

万葉集入門 (岩波ジュニア新書)

万葉集入門 (岩波ジュニア新書)

 

 

 

楽しくわかる万葉集 (図解雑学)

楽しくわかる万葉集 (図解雑学)

 

万葉集、面白いよ。