透き通る試論

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長い間ぼくをとらえて離れない問題がある。

それは「透き通る」という漢字がまったく透き通ってない問題、という非常に根深い問題だ。

なにをいっているかわからないかもしれない。

なんとか言葉にしてみるために、色という概念を持ち出してみることにする。

 

「透」という漢字を見たときに、何色を思い浮かべるだろうか。

ぼくは限りなく透明に近いブルー、もはや色とは呼べないようなガラスの色を思い浮かべる。もちろん「透明」という言葉を連想するからだろうし、「禾」の下に「乃」、さらに「之繞」というがたがたとした漢字の不安定さ自体が、なんだか風通しのよさを物語っているようにも見える。

 

対して「通」という字である。

ぼくにはこの漢字は、砂の色や苔の色にしかみえない。なぜかはわからない。けれど、どうしても透き通った色には見えない。

さらにこの角ばった字体が、どこか形式ばった戦前の学校のような雰囲気すら与える。この漢字の「通る」は風ではなくて、もっと重量のあるものが通っていく感覚がある。

 

その色調の違いが、組み合わさって「透き通る」となったときに、「透き」まではするするといくのに「通る」にさしかかった途端に抵抗がうまれる。壁のように、行く手を遮ってしまう。

手元の辞書によれば「透き通る」とは

 

①薄い紙や布などを通して、▵中(向こう)にある物がよく見える。「透き通った肌」

②高く澄んだ声・音が、あざやかに聞こえて来る。

 

ことをあらわしている。

抵抗があってはいけないのである。「透き通る」という漢字には、厚紙3枚分くらいのつまずきがある。全体の色調が、「通」のせいで砂の色っぽくなってしまう。

そこで、いくつかの漢字を提案してみようと思う。

みなさんもどれがよいか考えてみてほしい。

 

 

1 すきとおる

あえて全部ひらがなにしたパターン。ぱっと見たときに受ける印象は「丸い」というものだ。丸というのは循環であって、とおり抜けていくというよりは、むしろサイクロン掃除機のように風がぐるぐる留まっている感じがする。

統一感でいえば、さすがにひらがななだけあって違和感はないのだけど、たとえば小説やなんかで「すきとおっていった」と書いてあったら、特別な意図のない限りちょっと柔らかすぎる気がする。

やはり「透」という字の圧倒的透明感は使いたい。

 

2 梳き透る

「流」という字も連想されて、流れていく感覚はあるのだけれど、如何せん「髪を梳く」という言葉によるバイアスで櫛がちらついてしまう。

イメージとしては櫛の間を通っていく感じ、逆に風が通り過ぎている感じ。ほしいのは遠景のイメージなのだ。もう少し長い距離を、ほんのわずかな抵抗をもって進行する感覚がほしい。

 

3 透き徹る

辞書にものっている、正式な「透き通る」の別表記。

これはかなりいい線を行っているように思える。「通」に比べればそんなに抵抗感はなく、行人偏とノ文のカーブが、いい感じの風通しの良さを演出している。

若干「徹」という字が黒っぽく感じるけれど、組み合わせてみるとやや大人っぽくて、一目置かれていそうな風格がある。

 

4 隙通る

これはどう見たって路地裏の隙間などを体を細めて通る人間か、機動性のある原付バイクで追ってくるパトカーをまく、行為として重量感のある某かの「通る」様が強く出すぎている。歌舞伎やなんかの技法や、そういう意味合いのあたらしい動詞みたいだ。

 

5 透きとおる

これも1と同じで、ちょっと丸すぎるし長すぎる。五文字になる場合は、もっとしゅっとした鋭さのある文字だったらよかった気がする。

感覚的には「透しさくし」くらいの見通しの良い文字の羅列で「すきとおる」と読めたらベストだった。

 

6 空き透る

これは個人的にはよいと思う。「空」の色調と「透」の色調はかなり近いところがある上に、「空」の字が入ることで、すこーんと突き抜けるような感覚がうまれている。

「穴と工」の間の風が吹き抜けやすそうな空白もいい感じ。

問題は「あきとおる」とも読めてしまう点か。

 

7 漉き透る

適当に「すき」に該当する漢字を当てはめた場合。「さんずい」はいい具合に漢字に透明感を与えるのだけど、この字に関してはなにかを「漉す」感じが強すぎる。

一読して「すき」とは読みづらいという、外因的な抵抗感があることによって、メタ的に透き通ってなさがあってしまう。

 

8 透き融る

今度は「とおる」に該当する漢字を当てはめた場合。「融解」を想起させる字なだけあって、透明度は「通」よりは高い。けれど、ちょっと液体っぽすぎる気がする。

「透き通る」は実際透き通っているのが何かというのは置いておいて、気体のイメージがある。キーワードは軽さ。

 

9 空き徹る

両方とも変えてみた例。やはり「空」「徹」のポテンシャルが高いこともあって、漢字自体はよくマッチしている。

けれど、なぜだかぼくには白黒のモノクロな言葉に見えてしまって、わかるかわからないかくらいの「青」のイメージがなくなってしまっている。あまりに記号的すぎるきらいがある。なぜだろう。

 

10 透き透る

本当はこれで「すきとおる」のイメージは完璧なのだけれど、なぜ同じ漢字の組み合わせで作れる言葉で「すきとおる」という感覚に名前を与えてしまったのか。

「めしそーる」みたいな言葉で「すきとおる」感覚を実感できればよかったのだけれど、言葉というのは深く根付いてしまってもう逃れられない。

 

 

結論

「透き通る」よりも「透き徹る」あるいは「空き透る」のほうが「すきとおる」には相応しい気がする。

けれども、何かしらの違和感は拭い去ることはできないので、「すきとおる」という言葉で「すきとおる」ことを表現した人間がすべて悪い。

 

 

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