神大短歌vol.4感想

 

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 (画像はTwitterからお借りしました)

 

神大短歌会。

創設の時期にちょっとかかわりがあったので、そのつてで買ってみました。

気になった歌をチョイスしてみようかなと思います。

 

さるすべり咲く夏いくつ重ねてもわたしのものにならない空よ/嶋田さくらこ

 

『やさしいぴあの』の嶋田さくらこさんによる寄稿。「Sa」の音の置き所がよくて、爽やかではあるけれどさらっと過ぎていってしまう夏のような上の句に、「a」の嘆息があふれる下の句。実家の庭にさるすべりの木がたっているのだけれど、幹を触ると制汗シートで拭いた後の肌のようにすべすべしていて、ひっかかりがまったくない。空を掴むことはできない。猿から進化しただけの人間に、自然は、時間はあまりに深淵で程遠いのだ。

 

 

マッキーで腕に描く星 能力を封印された妖怪だから/貴羽るき

 

まあ、ぱっと思い浮かぶ「封印された妖怪」といえばどうしても『NARUTO』の九尾狐とかになってしまうのだけれど、たいてい曰くのあるスポットは仰々しい印や紋章が刻み込まれている。あんなのがあるから、肝試し気分の大学生が封印を破ってしまって世界がたいへんなことになるのだ。思い切って更地にしてしまえば、かえって誰も気にしないのに。けれど、大きな存在は存在しているということを叫ばなければ済まないのだ。ピアスを開けるのでもなく、手首を切るのでもなく、マッキーで星を腕に描く、それだけで何者かであることができるのだ。

 

 

電飾の消えた食品サンプルのショーケースがいちばんあたたかい/すずきはるか

 

食品サンプル。おいしそうでなければ、お店に入ってくれない。けれど、自らは食べられるわけではなく、ただ軒先にさらされているだけ。いわば、自分に似た別物のために存在している存在。ちゃんと活動して、他者の役に立っているものからしたら影であり、なぜ存在しているのか、という理由が希薄だ。彼ら(彼女ら)が休むことができるのは、みんなが寝静まった夜だけ。まるである種の人間みたいですね。食品サンプルという着眼点がよい。

「シティーライフ」という都市生活の疲れを綴った連作の中に置かれることで、じんわりとしたよさが浮かび上がってくる。夜のやさしさへの憧憬だ。「ストラクチャー」もよかった。

 

 

ナチュラルに笑えてるけど先輩はヒトを解剖したんですよね/上木優香

 

連作をしっかり読んでいくと、医学部生の、あるいは医療についての問題意識が詰まっているのだけれど、最初に読んだときは、又吉の自由律俳句のようなものに見えてふふっと笑ってしまった。

血と肉をもっている人間が、同じ人間を解剖するのはやっぱり恐ろしくて、大江健三郎の「死者の奢り」ではないけれど「人」を物として、「ヒト」として扱っているわけだ。中世風にいえば神の似姿を、暴いて、切り刻んでいるわけで、冒涜的だともいえる。それでもそうやって人間を解剖しながら「ナチュラルに笑え」る人間のおかげで生きることができる人間もいるわけだ。

そういう根深い問題意識が女子高生のつぶやきのような軽妙な歌になっているのがよいと思った。

 

 

おりがみを虹の形に折りました 生命線を没収されて/村上なぎ

 

じっと手を見る。生命線のカーブが虹のように見えてくる。昔何かで見たのだけれど、生命線というのは長さではなくて、曲がり具合が重要らしい。誰に生命線を没収されたのかはわからないけれど、これは生命線が失われてしまったから、それを補うように折り紙を折ったという風に解釈した。

虹は雨のあとにできるものだし、虹の根元にはどうやらたいへんな宝物が埋まっているらしいので、そんなたいへんなものが折り紙で折れてしまうのはうれしいことだと思う。生きる意味が感じられないのなら、自分の手を使って、美しくてすごいものを作ればいいのだ。

 

 

織姫は彦星がいないときにだけ会員制露天風呂を楽しむ/梯やすめ

 

364日ほぼ毎日じゃないか!!!

ということで、甘いラブストーリーも蓋を開けてしまえばこんなものかもしれない、というあけすけな感じがよかった。一年に一回しか会えないのも、何千年と続けてくると特別感もわりと薄れてくるのだろうか。

 

 

鍵忘れ記憶ちぐはぐそんな日に大きなラムネをむさぼる、ぐふふ/むらかれん

 

どうしても、ラムネというと錠剤をイメージしてしまって、したがって睡眠だとかむしろ記憶喪失が縁語としてでてきてしまうのだけれど、その真逆の使い方(ある意味では安定剤なのだけれど)がされていて新鮮だった。

ぶれている軸に芯を通す大きなラムネ。「ぐふふ」というコミカルな擬音が入ってくることによって、駄菓子屋で大人買いをしたお菓子にかじりついているような茶目っ気がでてくる。豪快でよいと思う。

 

 

ぼくだけが知らないうちにこの町が濡れたよぼくの知ってる町が/九条しょーこ

 

九条さんの短歌はどれもよかったです。叙情といってしまえばそれまでだけれど、連作にも名前が出てきていたスピッツフジファブリックフラワーカンパニーズの、あの感じ。

知らないうちに世界は変わっていく。ぼくたちは取り残される。知っていたはずの風景が一変して見える。「インソムニア」だ。しっかり目を開いていたはずなのに、ぼく以外の人間がみんな当然のように見ていたものを見逃してしまう。違うところを見ていたのだろうか。ぼくだけが狐に化かされているのだろうか。みんなできていることができない。けれど、だからこそ、人と違うことができる。

夜を歩くこと(夜を駆ける)や「水色」の言葉(水色の街)などから、『三日月ロック』のようなイメージをもった連作であった。好き。

 

 

一首評や贈答歌も面白く読みました。

短歌バトル、もう一度学生に戻れるならでてみたい。

次号もまた楽しみにしています。