偶然の祝福
鈍行で長野へ帰る。いつもながら腰が痛くなる。6時間の長旅だ。
道中では小川洋子『偶然の祝福』を読んだ。
小説家である主人公の語りで、不思議な世界が展開される連作短編集だ。
現実の中に奇妙な人物や単語が飛び込んでくる。そこからはもう小川洋子の世界だ。今回は「書く」ということにもスポットが当てられ、半自叙伝的に読むことができる。
失踪者たちが語ったさまざまな物語の姿を、一つ一つよみがえらせてゆく。
「失踪者たちの王国」より。失われたものたちがもつ物語を、彼女はいつでも語ろうとしている。失われ、損なわれたものに言葉を与え、意味を与え、物語を聞きとる。彼女の精神性は、例えば村上春樹に近い。
「キリコさんの失敗」ではなくしたものを見つける天才・キリコさんが出てくる。完全に小川さんのことだ。彼女は偶然に愛されている。魂と偶然は近いところで動いているだろう。偶然に愛されている人は、なんというか魂を扱うのがうまいのだ。
そういえば、僕は中津川駅で初めて途中下車してみた。
思っていた以上に何もなくて、2時間20分の待ち時間をどう過ごそうかと思いながらぶらぶら歩いていると、偶然マクドナルドを発見した。こうして僕は暖かいマックで時間を過ごすことができたのだ。
これって偶然に愛されている?
でもなぜかそこのマックで充電器を使うことができなかった。
やっぱ偶然に愛されてはいませんでした。