2017年ベスト(本・その他コンテンツ)
2016年は「失」という漢字で総括していた。
去年は「変」だと思う。よくもわるくも、いろいろな変化があった。
兵庫短歌賞の新人賞をもらい、短歌の集まりによくいった。それから仕事をはじめた。薬の量も減った。
去年は漫画や音楽にあまり触れなかったので、例年のように本、音楽、漫画という章だてにはせず、本とその他コンテンツという形にしようと思う。今年はたくさん触れていきたい。
【BOOK編】
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)
- 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,鼓直
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12/01
- メディア: 単行本
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文学界の大ボス、という概念が存在していて、それはドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』、ジョイス『ユリシーズ』、プルースト『失われた時を求めて』、ピンチョン『重力の虹』、そしてこの『百年の孤独』だ。まあ、その概念はぼくが勝手に思っているだけなのだけれど。とにかく、読書メーターの登録数が1000冊だったので、えい、とばかりに読み進めてみた。同じ名前の人間がたくさん出てくるのだけれど、みんな立ち位置やキャラがしっかりしているので、案外混同はしなかった。木に縛り付けられる老人、空飛ぶ絨毯をもつ錬金術師、人が死んだら降る黄色い花、こういう摩訶不思議な世界観は本当に大好き。『エレンディラ』の長編という感じ。この一冊に、何編の短編小説のアイデアが凝縮されているのだろう。
ラテンアメリカ文学(というと広すぎるけれど)の奇妙さ、というのは垂涎ものだ。今年も読んでいきたい。
町田康といえば『告白』だったのだけれど、個人的にはこちらのほうが好きだった。まくしたてる文体、ダウンタウンのコントのような構成。笑える文学というのは、わりあい稀有だと思う。やはりこれも摩訶不思議としかいいようがなくて、『きれぎれ』の冒頭のような幻視が満載ながらも、最後は『弥次喜多in DEEP』のような壮大さへと収束(攪拌?)されていく。
宗教っていうのは、まあ、こんなものだよな、という批評的な意識ももちろん感じられ、さすがはパンクロッカーさるぼんぼんと涙ながらにページを閉じたのだった。2018年は町田康の年になれば、と切に思う。(犬年なので)
シュトルム『みずうみ』
みずうみ、という題の本、すべて好きなのかもしれないという直観がある。この本は、もう会うことのできない人間がすすめてくれたもので、しばらく置いていた本だった。たまたまかばんに入れたまま本屋へ向かう途中に、見知らぬ女性に話しかけられた。「あの、さつまいもチップス買いませんか」。ぼくはイヤホンをつけていたのだけれど、それでも話しかけてくるなんて、どれだけ売りたいんだ、と思いながらも「わざわざぼくなんかに話しかけてくれたんだから……」という生来の断れなさを発揮して、思わず買ってしまった。おかげで本が買えなくなったので、チップスを齧りながら扇町公園の鉄塔の土台に座って読んだのだった。
叙情、失われた青春、そういう言葉がそのまま一冊の本になったような代物であった。読み終わって顔をあげたら、夕日が沈みかけつつ空を橙に染めていて、ああ、悪くない一日だったな、と思ったのだった。
残雪/バオ・ニン『暗夜/戦争の悲しみ』
暗夜/戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-6)
- 作者: バオ・ニン,残雪,近藤直子,井川一久
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/08/09
- メディア: 単行本
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隔月で『池澤夏樹世界文学全集』を読んでいこうという試みをしている。どうも池澤夏樹は、反効率主義、近代化へのアンチといったテーマで選んでいるのではないか、という気がしてくる。残雪という作家は、文化大革命の被害者であって、理想という言葉の逆を貼るような薄暗くて不気味な作風の作家。ボルヘスに通じるところもあって、ひとことで表すなら「影」だ。アンナ・カヴァンなんかも少し思い浮かべた。
バオ・ニンはベトナム戦争をベトナム人側から書いた作家。よく燃やすために、わざわざよく燃える草の種を空から蒔いていたというのだから恐ろしい。ここを境に、ベトナム戦争について調べていくことになった。残雪のものもそうだし、リョサの『楽園への道』などでもそうだけれど、世界文学は日本のものをよむときと少し違った部分の筋肉を使うので、どっと疲れるけれど、爽快感もあるのだった。
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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はじめてよんだのは高校生のとき、テスト範囲として原文のペーパーバックが配布されて、したがって英語で読んだのだった。当時からずっと「二分間憎悪」だの「二重思考」だの、なんとなく口にしてしまう造語が印象的であった。
それから村上春樹の『1Q84』や伊藤計劃の『ハーモニー』などで、陽の目があたっていき、ピンチョンの解説がついた新装版が刊行されるにあたって、もう一度読んでみた。思想的でありながら、根本はラブストーリーなので推進力がある。
あえてこんなことをいうのも、という感じではあるけれど、2+2=5を笑えない時代なのだと思う。
リャマサーレス『黄色い雨』
なぜ手に取ったかは覚えていないのだけれど、おそらく好きだろう、というセンサーがはたらいたような気がする。終わってしまった村で、孤独な男がひたすら「~だろう、~だろう」という語り口で世界を構成していく。「だろう」という言葉、かなしくないですか。どこまでも推量であって、事実とはいえない。現実と虚構のあわいをたゆたうための助動詞。この言葉でまくしたてられると、どんどん闇に包まれていく。
雨でぐずぐずになった地面のように、たしかな反発力があるはずの大地が、どろどろにとろけていく。
血と地。芥川賞の作品でもなんでも読めばわかるように、人気のあるテーマだ。それこそ『百年の孤独』であったり、フォークナーであったり、海外文学が発端であるとはいえ、日本ナイズされた血と地の文学は、また違った濃密さに満ちている。男は棒、女は穴。暴力とセックス。被差別部落の、汗と精液の匂い。
熊野という土地に、メタフォリカルな魅力を抱いていて、卒業旅行と称して熊野三山詣でをしたことがある。熊野本宮に比べれば、新宮のあたりはまだしも人気があるのだけれど、それでも独特の空気が流れていた。『枯木灘』で日本文学は終わっている、という言もあるけれど、ここが日本文学のはじまり、ということもできる。なんにせよ、ひとつの強大なランドマークであることは間違いない。
漢 a.k.a.GAMI『ヒップホップ・ドリーム』
ミーハーである。どちらかといえばHIPHOPという音楽ジャンルは、ぼくは苦手であった。それは中学生のとき、ぼくをいじめるような人間はことごとくHIPHOPを聞いていたからだった。だから、どんなに勧められようが、ここだけは敬遠していた。
それがFSDによって火が付き、あっという間にみんながラップをしていた。しばらく鬱病でおしまいになっていた2016年だったけれども、なんとなくラップをやりはじめたら精神がよくなった。「即興」とはある意味で切羽詰まるということで、わりあい思っている感情の言葉が素直にでてくる。ぼくはけっこう訥々と考えながら語ってしまうので、カウンセリングよりも、こちらのほうが「リアル」で健康的だった。
これはHIPHOP界を牽引し続けてきた漢a.k.a.GAMIの自伝なのだけれど、「マイクで『刺す』といったからほんとうに刺しにいった」という、エピソードを読んで「リアル」と「フェイク」という言葉の意味がすぽーんと脳の中でひらめいたのだった。
山口雅也『生ける屍の死』
たいていのミステリーオールタイムベストで名のあがる作品。死人が生きかえる世界観でのミステリーである。設定が奇妙なミステリー、たとえば詠坂雄二だとか西澤保彦だとか、というのは大好きで、特に死人の生きかえる世界、というまるで『ステーシーズ』のような設定ならば、なおさら好きに違いない、と思っていた。けれど、人気なものは距離をおきたい、というあきらかに損でしかない思考によって、しばらく置いたままにしていた。
分厚いけれども、文体が軽くて、まるでブコウスキーのようなパンキッシュなリード力によってぐいぐいと読んでいけてしまう。シドとナンシーみたいな二人がピンク色の霊柩車を乗り回す、と聞いて、おっと思う人はぜひ読んでほしい。
イバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』
地元に大きい図書館ができた、という話があったので行ってみた。ろくに本も買えないような土地だけれど、その図書館はなかなか大きかった。ビオイ・カサーレスやアンドレイ・クルコフなどとともに借りたのが、この寓話風物語だった。
深い穴に落ちてしまった兄弟。そこでの狂気。穴をのぼって人間を惨殺しに行くまでの経緯。
状況としては、たとえば日本ホラー小説大賞の『D‐ブリッジ・テープ』などに似ているけれど、こちらはよりいっそうメタファーだ。
穴、とはさまざまな隠喩を孕んでいる。丸々太った蛆虫を食べたり、憔悴して互いを襲ったりする兄弟はとにかく怒っている。それは革命の寓話である。
やわらかな語り口で描かれる苛烈な現実の根本に流れるのは「愛」なのである。
その他、印象的だったものをあげておく。
カーヴァー『CARVER'S DOZEN』
宮沢章夫『80年代地下文化論講義』
木田元『反哲学入門』
アンドレイ・クルコフ『ペンギンの憂鬱』
赤江瀑『罪喰い』
キャリントン『耳ラッパ』
後藤明生『挟み撃ち』
最果タヒ『星か獣になる季節』
今年は一日一冊読めたらいいな、と思う。
【OTHERS編】
映画というコンテンツにずっと苦手意識があった。2時間くらいずっと動かずにいなければならない、というのが恐ろしかったのだ。けれど、去年はいろいろとTSUTAYAで借りたり、映画館で見たり、徐々にふれはじめた。
印象的だったものを5つあげておく。
『T2 トレインスポッティング』
夜空くんと見に行った。マリファナやコカインがたくさんでてくるので、そういう映画かと思えば、失われた青春をめぐる物語であった。見終えた後、うわああとなった。前作で死んだメンバーの葬式をあげるために、スーツに花束のいでたちへ山へ行くカット。最高。俺たちも終わらないぞ。
『ニーチェの馬』
『タクシードライバー』からぶっ通しでみたのだけれど、えらいものを見てしまったという心地になった。時間そのものの体験。ひたすら風が吹いていて、長い時間をかけて水を汲んで、ジャガイモを齧る。こんな終わった映像を3時間よく見られたなと思うけれど、ある意味で心象風景そのままだったので、見終えて泣いた。
『エル・トポ』
詳しくはちょっと前に書いたので、気持ちだけ書いておくと、ああ、ぼくは「こういう」のが好きなんだよな、という再認識でした。カルト≒オタクなのでは。
『散歩する惑星』
あかごひねひねくんがもってきたもの。十字架を車でばきばき踏んでいくシーンが最高。やっぱり十字架はばきばき折ってこそ面白い。『サンタ・サングレ』でも大量生産されたキリスト像のカットがあって最高だった。今年は『未来世紀ブラジル』とか『イレイザーヘッド』とかみていきたい。
『パターソン』
ジャームッシュということで注目していたのだけれど見ずにいて、たまたま葉ね文庫で池上さんと話したのでちょっと遠くの単館まで見に行った。
黒人がコインランドリーの音でラップをして「詩を作っているんだ」と言っているシーンが最高。ロックンロールは鳴りやまず、詩はどこまでも続いていく。2017年に見た映画では一番だった。
音楽について。
毎日のようにレコードショップへ行っていたのに、去年はあまり行かなかった。
ライブは1月のでんぱ組in武道館、4月の&DNAパスピエ、7月のスピッツ30周年、そして9月の夏の魔物in川崎。
でんぱ組は、新しく虹のコンキスタドールの二人が入った。どんなになろうがぼくはコズミックメロンソーダマジックラブを背負うけれど、それでも6人の最後のライブを見に行けてよかった。WWDBESTは間違いなくでんぱ組のすべてであって、6人で歌ったのは、たぶんあれが最初で最後だったろう。
夏の魔物、ずっと行きたいと思いながら青森だったので行けなかった。筋肉少女帯のピックをとった。大森靖子に触った。まあ、いろいろとあったわけだけれど、最高という一言に含まれるあらゆる感情のみの肉体になった一日だった。
去年まではその年にリリースしたものを選んでいたけれど、2017年は2017年きいたもの、というくくりでいきたいと思う。つまりさぼりです。
大森靖子1部完。そういえてしまうほど、あまりに完璧な一枚。「流星ヘブン」なんてテン年代の一曲として歴史に残るだろう。セルフカバーなのだけれど、大森靖子の本質はやっぱり弾き語りなんだよな、と思う。2月の銀杏との対バンも楽しみ。
少女スキップ『COSODOROKITSUNE』
一時期、日本のシューゲイザーをきいていこうとおもっていろいろ聞いていたのだけれど、あ、好きだとなった一枚。ちょっとジャンルが違うかもしれないけれど『17歳とベルリンの壁』も好きで、あ、おしゃれ、という霊感がもるもると震えたのでした。
Burial『Untrue』
Untrue [解説付 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC322)
- アーティスト: Burial
- 出版社/メーカー: HYPERDUB RECORDS / BEAT RECORDS
- 発売日: 2012/02/11
- メディア: CD
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なんかもう歌詞とかしんどいな、という時期にクラブミュージックをだらだら流していたのだけれど、あげあげみたいなのより、こういうゲームソングみたいなのが好き。オタクなので。北欧メタルやDEDE MOUSEが好きなのもゲームっぽいから。オタクなので。
future funk
これについてはアーティストとかではなくて、ジャンルとして。ツイキャスをやったときにヴェイパー・ウェイブについて教えてもらって、そこからいろいろ見ていたらたどり着いたジャンル。要するに80年代のアニソンやJPOP(的なもの)をサンプリングして、ごりごりべたべたのダンスチューンにしちゃったやつなのだけれど、サンプリング元だとか、MVだとか、果てはアーティスト名までもぶっ飛んでいる(悲しいANDROIDとかマクロスmacross 82-99とか)ので、とてもよい。Artzie MusicやReal Love Musicなどのyoutubeチャンネルがあるので登録しておくと、無限に聞くことができます。
いとうせいこう『Mess/Age』
去年は東方とか東京03とか、個人的にはまっていたコンテンツはあったのだけれど、いとうせいこうという人間をしっかりと知ることができたのがとてもよかった。『ノーライフキング』の読書会から80年代文化論まで話が広がり、渋谷系の復活だとか、ニューアカだとか、そこらへんまで参照できたのは、ぜんぶいとうせいこうのおかげ。FSDで妙なことを言っているだけではないのである。
今年もおもしろいものにであいたい。