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日本ホラー小説大賞(おすすめのホラー小説:2016夏)

こんにちは、かみしのです。

 

夏になりましたね。夏といえばホラー小説ですね。そういうわけでそんな夏にうってつけの文学賞日本ホラー小説大賞について、今回は書いてみたいと思います。

ぼくはこの文学賞の作品を読もうという企画をひとりでやったことがあって、第20回までの受賞作品は全部読みました(第23回まで実施されています:2016年現在)

そんな作品の中で特に面白かった作品を紹介しようというのが、今回の目的です。

 

そもそも日本ホラー小説大賞とは何か。wikipediaから引用してみましょう。

 

1994年、角川書店とフジテレビによって、「同じ時代を生きている全ての読者と、恐怖を通して人間の闇と光を描こうとする才能豊かな書き手のために」をコンセプトとして設けられた。

第2回から第18回までは、長編部門と短編部門に分けて募集され、それぞれ長編賞と短編賞が授与された。また、両部門の中でもっとも優れた作品が大賞に選出された。第19回以降は、大賞、優秀賞(佳作)のほか、一般から選ばれたモニター審査員が選ぶ読者賞が選出される。

大賞受賞作品は、角川書店より単行本として刊行され、読者賞受賞作品は、角川ホラー文庫より刊行される。フジテレビによりテレビドラマ化、映画化・ビデオ化される場合もある。

 

ということで、本屋の角川文庫のところに行くと背表紙が真っ黒で異様なエリアがあることに気付くと思うのですが、その角川ホラー文庫の一端を担っている文学賞日本ホラー小説大賞です。

ひとえにホラーといっても、幽霊ものから妖怪もの、サスペンス、不条理ものとひろく「恐怖」を扱った小説を取り揃えています。有名どころでは道尾秀介石田衣良、『バトルロワイヤル』などが、この賞で候補に残っていたりします。

 

前置きはこれくらいにしていくつか作品を紹介していこうと思います。

 

第2回 短編賞 小林泰三玩具修理者

コズミック恐怖度★★★★★ 

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

 

クトゥルフ神話の伝承者として有名な小林泰三のデビュー作。表題作はばりばりのクトゥルフ作品。どんなものでも修理してくれる謎の存在「ようぐそうとほうとふ」と弟を死なせてしまった女の子の邂逅。スティーブン・キングの『ペット・セマタリー』やジェイコブスの『猿の手』を彷彿とさせる。同時収録の「酔歩する男」はタイムトラベルSFの傑作、かつコズミックなホラー。想像力に訴える作品で、かなり怖い。

 

 

第4回 大賞 貴志祐介「黒い家」

サイコ恐怖度★★★★★

黒い家 (角川ホラー文庫)

黒い家 (角川ホラー文庫)

 

悪の教典』や『新世界より』でおなじみの貴志祐介のデビュー作。恐怖で渇いた笑いと少しの涙が出た。〈心がない〉シリアルキラーの話。保険金殺人という、実際に起こりうる題材なのが、よけいにたちが悪い。現実世界にも大量殺人鬼は存在するけれど、描写が真に迫っているのは貴志自身が保険会社に働いていたからか。隣人がサイコパスだったら、電車で後ろに並んだ人がシリアルキラーだったら、そんなことを考え始めると何も信じられなくなる。映画版『ヒメアノ~ル』に似たひりひりした恐怖。

 

 

第4回 短編賞 沙藤一樹「D‐ブリッジ・テープ」

グロテスク恐怖度★★★★

ゴミ捨て場に捨てられた少年の一人語りで物語が進行していく。ほぼ全文が会話文で構成されていて、短編賞ゆえにそれほど長くなくさっくり読める。その割に、かなりに気持ち悪さと後味の悪さを残してくれる。救いが全くない。虫や鳥を「調理」して食べる場面は、思わず顔を顰めてしまう。少年の過酷な生活を吹き込んだD‐ブリッジ・テープとそれを茶化しながら聞く大人との対比に胸が痛くなる。

 

 

第6回 大賞 岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」

怪談恐怖度★★★★

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

 

「ぼっけえ、きょうてえ」とは岡山弁で「とても怖い」の意で、どの作品も岡山弁を駆使して書かれており、独特のねちっこい雰囲気が醸されてる。表題作は「妾」の一人語りで物語が進行し、暗い半生を吐露しながら、驚愕の事実が明らかに――というところで幕が閉じられ、気持ち悪い後味が残される。四十数ページの短い話の中でしっかりと伏線を張り、回収し、且ついい知れぬ恐怖を残す岩井さんの手腕は見事であると言わざるを得ない。

 

 

第8回 長編賞 桐生祐狩「夏の滴」

伝承恐怖度★★★★

夏の滴 角川ホラー文庫

夏の滴 角川ホラー文庫

 

〈授業中に京極夏彦を回し読み〉するような不気味な子供たちが、失踪した友人を見つけるために東京に向かう、という場面から始まり、物語は思わぬ方向へ。 ミステリー仕立てで、ぐいぐいと読ませてくれる。ライトノベルのような軽い文章ながら、テーマはいじめ、差別となかなかエグく、読んでいて辛くなってくるし、後味も悪い。大人は汚い。八重垣という登場人物だけが終始魅力的。閉鎖的な民間伝承ものは独特の雰囲気がある。

 

 

第10回 大賞 遠藤徹「姉飼」

世界観恐怖度★★★★★

姉飼 角川ホラー文庫

姉飼 角川ホラー文庫

 

縁日の屋台で串刺しになった女性「姉」を見つけ、それに魅入られていく主人公の話。発想が狂っていて、物語ではなく世界観に恐怖を感じる。筋肉少女帯の「再殺部隊」にも似た世界は、そのほかの収録作品、たとえば「ジャングル・ジム」などでもいかんなく発揮されている。遠藤さんに話を聞いたことがあるが、姉飼のイメージはカットアップのような方法で得たという。純文学を志向していたらしく、他の受賞作とはちょっと違った読み心地である。

 

 

第10回 短編賞 朱川湊人「白い部屋で月の歌を」

哲学的恐怖度★★★★★

白い部屋で月の歌を (角川ホラー文庫)

白い部屋で月の歌を (角川ホラー文庫)

 

直木賞作家朱川湊人のデビュー作。表題作は構成、文章が秀逸で、短編賞受賞作の中でもレベルの高い作品だと思う。しかしそれ以上に同時収録の中編「鉄柱」が印象に残る。村の中心にそびえたつ、自殺用の鉄柱。安楽死や自殺についていろいろな考えが浮かんでは消えてきて、そのまま道徳の教材にでも使えそうな作品。森鴎外の「高瀬舟」に逼迫するといっても過言ではない傑作だとぼくは思う。同じ作家の短篇集『都市伝説セピア』もおすすめ。

 

 

第12回 大賞 恒川光太郎「夜市」

ファンタジー度★★★★★

夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)

 

この作品をおすすめめしたいからこの記事を書いたようなもの。幻想的な一節から始まる「夜市」は、簡素な文体で書かれたホラーファンタジー。短いながらも、落ちの利いた構成や落ち着いた文章は大賞にふさわしい。そしてそれ以上に傑作なのは、同時収録の「風の古道」。「夜市」の不思議な世界観はそのままに、ほろ苦さを倍増させた作品で、驚くべき仕掛けも施されており、読後感かなりよい。漫画化もしている。ジブリの世界のように、いつまでもこの世界にとどまっていたいと思わせる世界観の作り方といったら恒川光太郎の右に出るものはなかなかいないのではないかと思う。

 

 

第14回 短編賞 曽根圭介「鼻」

不条理恐怖度★★★★

鼻 (角川ホラー文庫)

鼻 (角川ホラー文庫)

 

「暴落」「受難」「鼻」の3編が収録されており、どの作品も質が高くかつ方向性が違っているので一冊で三回分おいしい作品集。「暴落」は「世にも奇妙な物語」テイストの短編で「あいつも株をあげたね」の「株」が本当に株で、その価値によって当人の価値も決まる世界だったら、という発想の作品で、落ちも綺麗にまとまっていた。こういう理詰めの作風が得意なのかと思いきや次の「受難」は、安部公房の『友達』を彷彿とさせる不条理小説。受賞作の「鼻」もまた奇妙なミステリー仕立ての作品。

 

 

第15回 大賞 真藤順丈「庵堂三兄弟の聖職」

愛度 ★★★★★

遺体を加工して遺品を作り出す「遺工」を生業とする和製エド・ゲイン、正太郎と二人の弟を巡る生と死と暴力のお話。解体加工の描写は工芸品の制作過程を見ているようで、グロさも感じない。「ウカツ。また死体と一緒に寝てしまった」という、奇を衒ったかのような冒頭からは想像できないような、アツい話だった。テーマは「繋がり」終盤の赤ん坊の声や、最後の毅巳の口調には心を打たれる。グツグツとした狂気を、ミステリーやユーモア、ハードボイルドのスパイスで味付けをした、いわゆるメフィスト系風味の家族小説。人はどういう形であろうと、繋がることができる。平山夢明の解説も素敵。

 

 

第15回 短編賞 田辺青蛙「生き屏風」

ほっこり度★★★★

生き屏風 角川ホラー文庫

生き屏風 角川ホラー文庫

 

背筋が凍るような恐怖こそないけれど、主人公の皐月をはじめとした魅力的な登場人物と不思議な世界観によって瞬く間に惹き付けられてしまう。ホラーというよりは、ほのぼの系妖怪譚。続編も出ていて、ほろ苦いライトノベルのような読み心地。作者の田辺青蛙さんは芥川賞作家である円城塔の奥さん。夫婦そろって奇妙奇天烈な世界観を提供してくれる。

 

 

第17回 長編賞 法条遥「バイロケーション」

形而上的恐怖度★★★★

バイロケーション (角川ホラー文庫)

バイロケーション (角川ホラー文庫)

 

SFミステリーのような読み心地。ホラーとしては新感覚で、目を閉じているときに世界は存在するのかとか、哲学的ゾンビとかを考え始めたときのぞっとする感情を描いた、言うなればフィロソフィカル・ホラー。もしも中身も外見も人間で、それにもかかわらず別の人間として存在しうる「自分」がいたら。哲学的ゾンビ以上に人間と遜色ない幻が存在したら。その幻がオリジナル以上にオリジナルに相応しかったとしたら。後味が切なすぎる。どうでもいいけれど「テイルズオブジアビス」を思い浮かべた。

 

 

第17回 短編賞 伴名練「少女禁区」

きゅんきゅん度★★★★★

少女禁区 (角川ホラー文庫)

少女禁区 (角川ホラー文庫)

 

あほみたいな指標だけど、これがめっちゃ胸がきゅんきゅんとするわけなのです。村で悪魔のように扱われている少女とその呪いにかかった男の子の話。『化物語』シリーズに通じるところもある。因習的な怖さもあるのだけれど、それ以上に少女が魅力的で、ライトノベルになった谷崎潤一郎江戸川乱歩のよう。読み終わった瞬間におおおおおおおと声を上げること請け合いの作品である。伴名練は最近SFの分野で名前が売れてきている。どんどん有名になってほしい。

 

 

第18回 長編賞 堀井拓馬「なまづま」

べちゃべちゃ恐怖度★★★★

なまづま (角川ホラー文庫)

なまづま (角川ホラー文庫)

 

異臭を放ち、嫌悪感を催すヌメリヒトモドキを飼育し、死んだ妻を生き返らそうと試みる、静かに狂った男の話。まとわりつくような気持ち悪さのある作品だが、それ以上に悲しい作品。愛はどこまで人を狂わせてしまうのか。人間の描写が上手なだけに、(もしかしたら著者と年が近いからかもしれないけれど)妻との思い出語りは胸にくるものがあった。それだけにオチは残酷。確かに文章はくどいけれど、何かしら心に深い傷跡を残してくれる小説だと思う。

 

 

第20回 優秀賞 倉狩聡 「かにみそ」

ドラえもん度★★★★

かにみそ (角川ホラー文庫)

かにみそ (角川ホラー文庫)

 

長編賞と短編賞というくくりではなく、優秀賞と読者賞というくくりになって以降(個人的に)唯一の傑作。蟹がかわいい。蟹(雄)×私(男)の友情物語。蟹の属性はドラえもん系妹科。とにかくかわいいのだ。落ち込む主人公にペットボトルの水とか持ってきちゃうし、大きなはさみで背中とかさすっちゃう。あまりのかわいさに主人公はついに蟹に手を出してしまう。全ての生物にとって生きることとは食べることだ。そこに倫理を持ち込むのは、人間だけだ。そういった枠組みは結構王道だけど、その王道をこうアレンジしたかと感心させられる。宮部みゆきも選評で仄めかしていたけど、ホラーの読後感というよりも、むしろちょっといいBLを読んだ後のような、やるせない気持ちになる。「百合の火葬」からは筆者の力量が伺える。夏目漱石の「夢十夜」が頭を掠めた。心がきゅっとなる名作だ。

 

 

以上、第1回から20回までの個人的なおすすめを書いてみました。

ホラー小説はもちろん日本ホラー小説大賞角川ホラー文庫以外にも無限にあるわけだけれど、とりあえずの足掛かりとしてこんな小説たちにふれてみてはどうでしょう。

 

ひやっとしたいときにおすすめです。